私の美の世界

私の美の世界 (新潮文庫)

私の美の世界 (新潮文庫)

美意識と純度の高いエロティシズムで美少年とか美男子とか美女とかの立ちようを容赦なく描いて私をメロメロにさせる森茉莉さんの日常エッセイ。卵の食べ方からビスケット、紅茶の煎れ方等々愛するものの事をこれでもかこれでもかと綴られていくわけですが、同じくらい徹底的に嫌いなものの事も手間を惜しまずに書かれていて、特にチョコチョコ出て来る塩煎餅への嫌い方は執念を感じる(笑)愛するものを愛するが故にきらいなものを激しく嫌う純情さは疲れるから普通は薄れて行くものなんだけど、当人曰く「明治生まれのおばあちゃん」となっても決してそれを手放さず、大事だろうが小事だろうがあくまで自分の生活を基準にしっかり守ってるのがなんともたのもしい。そしてそして何より感じるのは、それにより生まれる幸福と恍惚。
森さんが花が咲くように幸せなのは、結婚したからとか、ひとりだからとか、子供がいたからとか、いなかったとか、働いてたからとか、無職だからとか、文章を書けたからとか、金があるからとか、貧乏だからとか、自由だからとかそんなちんけなことじゃなくって、塩煎餅から始まって音楽動物世間社会世界自然生活全てに至るまで、愛するにしても嫌うにしても手を抜かずに自分の中のうつくしいものと共に生きているからだと、人間(特に女)は心の中にこんこんと湧くものがある事を知っているからだと思う。ナンてすてきなんだ。夢のようだ。


しかしあれだよなあー。梨木香歩のエッセイ読んだ時も思いましたが、まともな女の人は、例えが古くて申し訳ないがいいタイミングで「ラブストーリーは突然に」が流れて来るようなものを愛だ恋だなんて決して言わないよなあ。心持ちのいい事よ。