エロを規制すれば健全な社会になると言いたげな、こどもは真っ白なものだと言いたげな風潮に、自分の幼稚園時代を思い出すに、まだ生まれて5年だか6年の身空で、何の根拠もなく「わたしはつまさきからくさってしぬんじゃないか?」と思っていて、心配で毎朝自分の足を見てホッとしたりしていた。見る夢は決まって夜の駅で(後で都電荒川線を利用してあまりにその夢と似ていてビックリした)自分だけ降ろされて皆が電車に乗って行ってしまって泣いて目が覚めたりしていたし、文字もろくに読めず、テレビや遊園地のアトラクションですら怖くて忌避していた何も知らない子供は、幸福な環境に身を置きながら、常に何かに怯えていた。「それはおまえだからだ」と言われればそれまでだけど、人間は生まれながらにして教えられなくても陰の部分がちゃんとあるとわたしは知っているので、それはちがうと言いたいんだが、だからなんだという気もして、心の中で小さいわたしと手をつないで遠巻きに騒ぎを見ていたりする。